神社が所有する不動産を売買する登記申請書に氏子総代会・神社本庁の同意書はつけなければならないか
つける必要はありません。登記申請書には申請するにあたり第三者の許可が必要な申請にはその同意書や許可書をつけなければならない、とされています。この第三者の同意書の中に包括宗教法人である神社本庁や神社の氏子総代会(あるいは責任役員)の同意書が含まれるのか、という問題です。法務省の見解では宗教法人令の時代では必要という回答がなされていますが、宗教法人法時代になってからの回答では不要とされています。最新の回答からすると神社本庁や神社の氏子総代会(あるいは責任役員)の同意書は第三者の同意書の中に含まれていません。つまり神社所有の不動産を売却するとき登記申請書に神社本庁や神社の氏子総代会の同意書をつける必要はない、ということになります。ただし間違わないでほしいのは神社本庁や神社の氏子総代会の同意書は登記申請書に付ける必要はない、ということであって、同意自体が不要という意味ではない、ということです。規則の規定に従って許可や同意が必要な案件については相手方の同意をもらうことは当然行わなければならない手続であり、その上で登記申請を行うことはいうまでもありません。また宗教法人法第23条によれば神社所有の不動産を売却するときは規則に定める方法によって1ヶ月間公告をしなければならないことになっており、登記申請するまでの手続には少なくとも1ヶ月の時間は必要ということになります。さらに神社所有の不動産を売却することによって基本財産が増えることになれば都道府県知事から規則変更の認可を得て規則を変更した上で宗教法人基本財産総額変更の登記をすることも必要になります。
功績のあった崇敬者に神社の土地を贈与したい
これは一般的な話ではなく個別事案です。この土地には以下のような事情がありました。
1.神社に対して多大な功績があった崇敬者がいる。
2.崇敬者は長年神社の隣に住んでいる。登記上崇敬者の住む住宅は神社名義の境内地の一角に建っ ている。
3.近年地籍調査が入り、上記2の土地は神社所有の境内地と崇敬者居住部分の宅地に分筆・一部地目変更された。
4.上記3の宅地は神社名義であるが、崇敬者の多年の功績に感謝し、崇敬者居住部分の宅地を贈与したい。
という事情だが、贈与は可能か?という相談です。
神社規則には通常重要財産処分にあたっては責任役員会で承認の上神社本庁統理の承認をうける、という記載があるはずです。また、神社として神社の基本財産を減らすことは極力避けなければならないはずです。
神社庁からは、神社財産を減らすような財産処分は原則認められない。たとえ用地買収などのやむを得ない場合であっても譲る土地の対価に見合った額の代金を受け取り神社財産に組み入れなければならない、という指導がありました。ですから神社の基本財産である土地を個人に贈与することを神社本庁が許可する可能性はほとんどなく、現実に神社所有地を贈与することはまず不可能です。また売買という方法をとるにしても、売買代金は役員間で分配したりせず、神社財産にきちんと組み入れなければなりません。基本財産の総額の変更登記もしなければならなくなる場合もあります。
法律上は神社が土地を他人に贈与することを禁止する法律はありません。ですから一方的に責任役員会を開催し神社本庁から離脱決議をし、その後規則を変更し、土地を贈与する決議をして贈与することは可能ですが、はたしてそこまでして進めなければならない事案であるのかは疑問です。
本件相談は、崇敬者の方は神社に対して多大なる功績があり、土地も地籍調査で分筆されている、といった特殊な事情がある事案ですが、やはり贈与は難しそうです。相談者の方も売買の方向で神社庁と協議しながら進めていく、とのことでした。
神社が土地を取得するにあたり神社本庁の事前許可がいる場合
結論から言うと境内地を取得する場合は事前許可が必要となります。境内地を拡張する、公衆礼拝用に里宮を建てるため土地を取得する、等の場合は境内地の模様替えに該当するので事前に許可申請が必要です。境内地とならない土地については事前許可は不要ですが、基本財産が増えることになりますので神社庁宛に事後報告をする必要はあります。
また規則に基本財産の総額が記載されている場合は規則変更手続をすることになりますので、所轄庁に申請する前に神社本庁に規則変更許可申請をすることになります。この場合法人変更登記が必要になる場合があります。
いずれにしても取得する土地が境内地となるのかどうかを慎重に判断する必要があると思いますので事前に神社庁に照会した方がよいと思います。
用地買収の分筆登記で神社の土地の所在地番が変わる
道路拡張工事などによって神社境内地の一部が用地買収されることになった場合、分筆登記をすることによって境内地の地番が変わることがあります。具体的には○○○番が○○○番1、などと枝番つきに変更となる場合があります。土地の所在と宗教法人の所在地は別なものなので地番が変わっても法人登記の上では何もする必要はないのですが、神社庁から土地の地番と宗教法人の所在地を一致させなさい、という指導があったことがあります。土地の地番は法務局の登記官が定めるものなのでいったん変更されると変更されません。ただし、分筆登記前であれば、土地の地番と宗教法人の所在地が同じであるため引き続き同じ地番を使用したい旨を都道府県や市区町村の担当者に伝えれば、変更前の地番を引き続き使用できるよう配慮してもらえるはずです。この処置はあくまで神社の所在地についてのものなので、例えば境内地以外の駐車場などについてはそういった配慮はありません。
神社の駐車場を境内地に地目変更したい
従来からある境内地に隣接していたとしても、土地の利用目的が駐車場なのであれば地目は境内地にはなりません。境内地とは本殿・拝殿・社務所など宗教法人としての活動目的のための建物などの敷地です。例えば神社職員専用・氏子専用の駐車場であったとしても、上記の理由からその土地を境内地に地目変更することはできません。仮に従来の境内地と駐車場の敷地の垣根をすべて取り壊し、境内地と一体化したような状態まで工事を行ってなおかつ駐車場としてのスペースが全体の面積に対してごくわずかな場合、境内地と認定される可能性はありますが、現実問題として境内地にする可能性のためにそこまでする価値はないと思います。
公衆礼拝用建物敷地である登記がされている境内地が道路用地買収にかかったとき、分筆とともに一部地目変更すれば道路部分について公衆礼拝用建物敷地である登記を転写しなくともよいか
なるほどよく考えたなと思いますが、宗教法人法第六十六条第一項の登記のある土地の分筆について、という質疑応答と宗教法人法66条〜69条の趣旨からいって、分筆後の土地が境内地でなくなる場合でも転写は省略できず、分筆後に所有者から抹消の申請をすることになりそうです。
かつてあった神社の土地がない
神社明細帳時代に他の神社に合祀された神社名義の土地が残っているはずなので調べてほしい、というご相談がありました。相談者におうかがいしたところ、大体の場所はご存じでしたので地図から地番を追ってみることにしました。神社明細帳時代の話なので14条地図を見ても出てくる可能性は少ないと思い、旧土地台帳附属地図を閲覧してみました。ただ、マイラー再製地図と呼ばれるプラスチックフィルムの地図では情報量が少ないので、和紙公図と呼ばれる明治時代作製の原図を閲覧してみました。すると、相談者から教えていただいた場所付近に「村社」と表記された地番がありました。私の中の法則では「旧土地台帳附属地図のことは旧土地台帳にきけ」ですので、早速写しをとってみると、所有主氏名欄に村社○○神社の記載がありました。引続き閉鎖登記簿謄本をとってみましたところ、こちらには神社の記載はありませんでした。
旧土地台帳の記載によると当該土地は最初官有地として土地台帳に記載され、その後○神社、○○神社と所有権が移転し、昭和25年に自作農創設特別措置法により農林省が買い上げ個人に払下げされていました。
閉鎖登記簿謄本の記載は昭和25年に自作農創設特別措置法で個人に払下げされた段階での保存登記から始まっていました。
旧土地台帳、閉鎖登記簿ともに地目は田、でした。
以上の記載事項と和紙公図の記載を観察した結果を合わせて考えますと、まず神社明細帳時代に敷地を官有地とする神社が存在し、その後他の神社に合祀された。そして戦後農地改革の際に神社の敷地であった官有地は地目が農地であったため農林水産省に買収され個人に払い下げられた。ということのようです。本例は底地が官有地で、なおかつ地目が田であったため登記もされないまま神社の土地を失う結果となってしまいました。相談者と神様には残念な結果となってしまいました。現在、かつての境内地は道路敷地となっているようです。
昔のことは仕方ないのかもしれませんが、現在の神社についても、神社所有地がどこに何筆あるのかを把握し、その所有地の登記がどのような状態なのかを確認し、将来にわたって神社が存続できるよう登記をしておくことが必要であると思います。私の経験上神社の底地は意外に神社名義でないことが多く、認可地縁団体名義、宗教法人設立当時の地区代表個人名義、地区代表地区内全員の共有地、市町村の土地である等さまざまで、将来何かあったときに困るだろうと思うことがしばしばあります
御社殿の登記がない
意外に多くご相談をいただくのですが、社殿を改築するために融資を申し込んだり、保険加入を申請する際に、相手方から「建物の登記事項証明書をとってきて」と言われ、法務局に取りにいったら「登記されていませんね〜」といわれる事例です。
不動産登記(法人登記もですが)は申請しないと法務局の登記システムに登録されません。ですから過去に登記申請をしていなければ当然登記事項証明書は出ません。現実には土地については国有地でもない限り神社関係所在地の土地について何の登記されていない、ということはほとんどありませんが、建物については未登記であることがしばしばあります。その理由としてあげられるのは、御社殿そのものが登記制度ができる以前から存在していることが多いため、登記制度ができた時点で登記するという意識がうすかったと思われること、家屋に対する課税制度ができたのが昭和15年と土地と比べて遅いこと、現在の建物登記簿の表題部にあたる家屋台帳制度ができたのが昭和22年とさらに遅かったこと、御社殿は一般住宅と違い建築・改築時に融資を受けることがあまりないため登記を求められることが少ないこと、等があげられると思います。
御社殿を登記するには2段階の手続きを踏みます。第一段階は建物表題登記です。建物の柱の中心線上の床面積を正確に計測し、神社所有であることを証明する書類を添えて申請します。第二段階は建物保存登記です。この保存登記を申請することによって公に御社殿が神社所有であることを示すことができるようになります。
詳しくは不動産登記でよくある心配の神社所有の建物表題・保存登記をご覧ください。費用はかかりますがやはり土地家屋調査士・司法書士に依頼した方がよいと思います。
神社所有地に太陽光パネルを設置するために地上権を設定登記をする場合があります。まず注意する点としては境内地に地上権を設定することは包括宗教法人がまず認めることはない、ということが挙げられます。
次に、境内地以外の所有地に地上権を設定する場合は包括宗教法人の許可の他、地代の有無が問題となります。仮に数十年分の地代を一括前払いで受け取る場合は一時の収入となりますので税務署に申告する必要があります。ただし数十年分の地代を一括前払いというのは現実的にないと思いますので、毎年地代の支払いを受けることになると思います。その際は収益事業を行うことになりますのでそれに合わせて規則を変更し、その中に登記事項があれば法人変更登記を申請する必要があります。包括宗教法人に規則変更許可申請する際は収益は原則基本財産に積み立てること等条件が付けられることが多いので、規則変更事項については包括宗教法人に事前に相談する必要があります。その後所轄庁に規則変更許可申請し、登記申請するというのが大体の流れです。
また収益事業を行う以上事業税などを納税しなければならなくなります。場合によっては税理士をお願いすることにもなるでしょう。そういった諸税、諸費用、諸負担を考慮して契約をしないと事業を行っても収益がほとんどなくなってしまう可能性があります。
また登記とは離れてしまいますが自然エネルギーに対しては反対運動が起きることもありますのでそういった点についても注意深く検討し、専門家に相談してから設定することをお勧めします。
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